銀行に提供している担保の解除方法!成功への3つのコツ

2021年6月25日
銀行に提供している担保の解除方法!成功への3つのコツ

中小企業が事業資金を調達する際、信用力の補完として経営者や会社の所有する不動産を担保に提供するケースは少なくありません。
一度提供した担保を解除するのは難しいと考えられがちですが、適切な方法を取ることで担保を外すことが可能になります。
本記事では、銀行の担保を解除するための方法について詳しく解説します。

裸与信額とは

担保解除を考える際に重要なのが「裸与信額」という概念です。
裸与信(はだかよしん) とは、担保や保証でカバーされていない融資残高のこと です。つまり、銀行が純粋にリスクを負っている金額を指します。

裸与信額の定義と計算方法

裸与信額は、以下の計算式で算出されます。
『裸与信額 = 借入残高-(信用保証額+担保額)』

例えば、以下の表のような借入状況の会社を考えてみます。

借入残高保証額不動産担保裸与信額
A銀行100,00060,00040,0000
B銀行50,00020,000030,000
C銀行20,0000020,000

(単位:千円)

A銀行は、借入残高100,000千円のうち、保証額60,000千円+不動産担保40,000千円で全額カバーしているため、裸与信額は0円 です。
B銀行は、借入残高50,000千円のうち、保証額20,000千円しかないため、30,000千円が裸与信 となります。
C銀行は、保証や担保が一切ないため、20,000千円が全て裸与信 です。

また、A、B銀行で保証協会の無担保枠80,000千円を使っており、残りはプロパー融資です。
プロパー融資とは、信用保証協会を通さず、直接借入人と銀行が契約を交わして行われる融資です。

裸与信と銀行のリスク

銀行にとって、裸与信額が大きいほどリスクが高まります。

  • 担保や保証がある融資 → 万が一返済不能になっても、銀行は担保を売却したり、保証協会から補填を受けられるため、リスクは低い。
  • 裸与信がある融資 → 返済不能になった場合、銀行は直接損失を受けるため、慎重な審査が必要になる。

そのため、銀行は「裸与信をできるだけ減らしたい」と考えています。

裸与信と担保解除の関係

銀行が担保を外したがらない最大の理由は、「担保を外すと裸与信が増える=リスクが高まる」からです。
例えば、A銀行に対し「不動産担保を外してほしい」と依頼した場合、A銀行はこう言う可能性が高いです。

「それでしたら担保保全分の40,000千円を返済してください。それが出来ましたら、不動産担保を外すことを考えましょう。」

つまり、銀行は借入残高がある状態で、リスクを増やしてまで担保を外すことは基本的にしない ということです。

では、銀行の担保を解除するにはどうすればいいのでしょうか?
次の章で具体的な方法を解説します。

銀行の担保を解除する方法は?

担保を解除するには、銀行が納得できる形でリスクを軽減することが重要です。
その方法を具体的に見ていきましょう。

① 返済能力の向上

銀行が最も重要視するのは、返済能力です。財務状況を改善することで、担保を外す交渉がしやすくなります。

財務状況の改善策
  • 売上増加やコスト削減による利益確保
  • キャッシュフローを健全に保つための資金管理
  • 財務比率の改善(自己資本比率の向上など)

今回のケースでは、不動産担保分の40,000千円を返済する資金準備をします。
実際に返済できる状況を整えることが不動産担保を外す交渉には有利に働きますし、A銀行にプレッシャーを与えることができます。

② 資金を調達する

担保解除の条件として「担保相当額の返済」を求められることが多いため、新たな資金調達が有効な手段となります。

新たな融資先の検討

現在取引のあるB銀行やC銀行に追加融資を相談することで、資金の調達が可能になる場合があります。
今回の例では、プロパーで融資を受けているので、相談に乗ってくれる可能性が高いです。

③ 他銀行との取引を検討する

新たな金融機関と取引を開始し、別の担保を提供することで既存の担保を解除できる可能性があります。
政府系の銀行(政策金融公庫や商工中金)との取引が無ければ、新しく取引するタイミングとしても良い機会かと思います。

別の資産を担保として提供
  • 他の不動産を担保にする
  • 動産・売掛金担保融資(ABL)を活用する

銀行側のリスクを低減できる代替手段を提示することが交渉成功のカギとなります。

担保解除の具体的手続き

担保を解除する際には、以下の手続きを進める必要があります。

必要な書類の一覧
  • 担保解除申請書
  • 登記事項証明書
  • 返済証明書(必要な場合)
  • その他銀行が指定する書類
手続きの流れ
  1. 銀行に担保解除を相談
  2. 銀行の審査
  3. 返済計画の提示・実行
  4. 担保解除手続きの実行

手続きにかかる費用と期間

  • 費用:抵当権抹消の登記費用(司法書士報酬含む)
  • 期間:金融機関の審査状況により異なるが、通常1か月~3か月程度

担保の解除に対して銀行側の本音はどうなの?

銀行は融資残高を維持することで収益を確保しています。
そのため、担保解除を求めても簡単に応じることは少ないのが実情です。

銀行が担保解除を渋る理由

  • 銀行としてはリスクを減らしたい
  • 融資残高を維持するために返済を避けたい
  • 競合銀行への借り換えを防ぎたい

A銀行に担保の解除を相談をする際に、その分返済してくださいと言われる可能性が高いと申し上げました。
これはあくまでも担保を外させないための口実であり、A銀行の本音ではありません。

銀行の支店には本部から課せられたノルマがあります。
銀行の主な収入源は貸出利息ですから、融資残高のノルマが特に重要視されます。
この融資残高を減らさないためにも、A銀行の本音としては返済をしてほしくないわけです。

交渉を円滑に進めるポイント

  • 返済計画を具体的に示す
  • 代替担保の提案をする
  • 競合銀行との取引を示唆し、交渉材料とする

あらかじめ資金調達を行い、預金口座(今回の場合はA銀行)に入金しておき、いつでも返済できるという姿勢を見せることにより、A銀行は担保を外すことを真剣に検討する可能性が高くなるわけです。

最後に

中小企業の銀行取引において、気付かないうちにA銀行との取引のように、借入残高は多いけど裸与信での利用はないという状況になっていることが多く見受けられます。

担保解除は決して不可能ではありませんが、銀行の意図を理解し、適切な交渉を行うことが重要です。
まずは現状の借入状況を整理し、適切なアクションを取ることで、余分な担保を減らし、資金繰りの柔軟性を向上させましょう。